札幌市豊平区平岸の中古カメラ店、インヘリットカメラです。
今回は、少し嬉しい出来事がありました。
高校生に、モノクロフィルムの現像を教えに行ってきました。
もともと予定していたワークショップではありません。
ある日、高校生3人が店へフィルムを持ってきたところから始まった話です。
「このフィルムを現像してほしいんですけど」
高校生3人が店にやってきて、
「このフィルムを現像してほしいんですけど」
と相談してくれました。
見てみると、モノクロフィルムです。
話を聞くと、学校の部活動で保管されていたフィルムを使って写真を制作したいとのこと。
しかも、作品の提出期限が迫っていました。
もちろん、インヘリットカメラで現像することはできます。
ただ、さらに話を聞いてみると、学校には暗室も残っているそうです。
それなら、
「せっかくだから、自分たちで現像してみませんか?」
と提案してみました。
すると、目を輝かせながら、
「いいんですか?」
と。
その場で顧問の先生へ確認してもらい、日程を調整。
数日後には、私が学校へモノクロフィルム現像の指導に伺うことになりました。
かなり急な展開でした。
長い間使われていなかった学校の暗室
学校へ行って暗室を見せてもらうと、設備そのものはしっかり残っていました。
ただ、長い間ほとんど使われていなかったようです。
少しカビ臭さがあり、薬品関係の容器には傷みがあり、現像タンクにもカビが生えていました。
そこで、まずは現像をする前に環境を整えるところからスタートです。
現像タンクなど、最低限必要な道具を水で洗浄し、乾拭きして使える状態にしました。
学校には現像用の薬品も残っていたので、
・現像液
・停止液
・定着液
それぞれが何をするための薬品なのかを説明しながら、実際に処理液を作っていきます。
本当にゼロからのフィルム現像です。
教える側も少し緊張しました
学校にあった現像タンクは、キングのベルト式でした。
実は私自身、ベルト式の現像タンクをそれほど使った経験がありません。
ただ、ちょうど少し前に同じような現像タンクが店へ入荷していて、
「これはどうやって使うんだろう」
と調べていたところでした。
結果として、それが今回の予習になりました。
高校生たちはテスト用のフィルムを使って、
フィルムをどう巻くのか。
現像タンクへどう入れるのか。
最後にどのように蓋を閉めるのか。
そんな基本的なところから練習していきます。
見ているこちらも、なかなか緊張します。
何しろ、
「自分たちでやってみたらいいじゃん」
と言ったのは私です。
ところが、現場には自分が普段使っていない現像タンクと、普段使っていない現像液がある。
現像液は富士フイルムのスーパープロドールでした。
私は普段XTOLを使うことが多いため、いつもとは勝手が違います。
手元に十分な現像データもなかったため、一般的な現像条件などを参考にしながら処理時間を判断し、なんとか無事に現像することができました。
現像ムラも「いい失敗」
出来上がったフィルムを見ると、一部に現像ムラがありました。
フィルムをリールへ巻いた際、巻き始め付近でフィルム同士が少しくっついてしまい、薬品が十分に回らなかったようです。
でも私は、
これはこれで、いい失敗だったと思います。
フィルム全体が失敗したわけではありません。
そして実際のネガを見ながら、
「これが現像ムラだよ」
「次はここを気をつければいい」
という説明ができました。
初めからすべて完璧にできる必要はありません。
実際に失敗して、その原因を知る。
そして次の現像では同じ失敗をしないようにする。
フィルム現像は、そうした経験の積み重ねによって覚えていくものでもあります。
次は暗室で引き伸ばしプリントへ
その日はモノクロフィルムの現像までで終了しました。
すると、
「次は引き伸ばしも教えてください」
という話になりました。
学校の暗室には、引き伸ばし機も5台ほど残っています。
ラッキーの90M-Sが揃っていて、設備としてはかなり立派な暗室です。
ただし、こちらも長期間使われていなかったため、支柱には錆があり、引き伸ばしレンズにはかなりカビが発生していました。
そのままではプリント結果にも影響が出る可能性があるため、一度レンズを預かって店へ持ち帰り、簡単な分解清掃を行いました。
完全な状態とはいきませんが、引き伸ばしプリントに使える程度には戻せたと思います。
次は、自分たちで現像したネガを使って暗室で印画紙へ焼き付けます。
現像だけでもかなり楽しそうに取り組んでいたので、暗室の中で印画紙に像が浮かび上がる瞬間を見たとき、どんな反応をするのか。
私自身も楽しみにしています。
「フィルムをやりたいと言った生徒は久しぶり」
学校の先生に話を聞くと、フィルム写真をやってみたいと言い出した生徒が現れたのは、本当に久しぶりだったそうです。
以前は暗室もかなり使われていたそうですが、ある時期から使われなくなり、その後設備のトラブルなどもあって、換気扇なども動かない状態になっていました。
湿気がこもり、時間とともに道具も傷んでいった。
そんな暗室に今回、
「フィルム写真をやってみたい」
という高校生が現れました。
そして自分たちで現像できる場所を探し、インヘリットカメラまで来てくれました。
未来のある若い人たちに、こうした写真体験を伝えられる。
これは、中古カメラ店をやっていて本当に嬉しいことの一つです。
もちろん、将来インヘリットカメラのお客様になってくれたら、それも嬉しいことです。
ただ、それが目的ではありません。
彼らのこれからの人生の選択肢の中に、
「フィルム写真というものがある」
という記憶が残ってくれれば、それでも十分だと思っています。
若い世代にとって、フィルム写真は「新しいもの」
最近、インヘリットカメラではモノクロフィルム現像や暗室に関するワークショップを行う機会が増えています。
そこで感じることがあります。
私たちにとって昔から存在しているものでも、今の若い世代にとって、
フィルム現像も、暗室も、引き伸ばしプリントも、新しい体験です。
ですから、若い人がフィルムカメラに興味を持ったとき、最初から否定しないでほしいと思っています。
「フィルムは高いからやめた方がいい」
「これからフィルムはなくなる」
「今さらフィルムカメラを使う意味はない」
そういった話を聞くこともあります。
もちろん、親切心から言っている方もいると思います。
確かに、現在のフィルムは安いものではありません。
撮影するにもフィルム代がかかり、現像にも費用が必要です。
将来にわたって現在と同じ環境が続く保証もありません。
それでも私は、
フィルム写真は、まだまだこれからだと思っています。
これから評価されるのは「写真ができるまでのプロセス」かもしれない
現在のデジタルカメラは、本当に素晴らしい性能を持っています。
誰でも簡単に撮影でき、工夫次第で非常に高品質な写真を作ることができます。
解像度、高感度性能、オートフォーカス、手ブレ補正。
写真をより綺麗に、より確実に撮るための技術は大きく進歩しました。
ただ、
「より綺麗な写真を撮る」という方向については、かなり成熟してきた
ようにも感じます。
そうなったとき、次に改めて価値を持つものの一つが、
写真が出来上がるまでのプロセスそのもの
なのではないでしょうか。
フィルムをカメラに入れる。
一枚ずつ撮影する。
撮り終わったフィルムを取り出す。
暗い場所でリールへ巻く。
現像液を作る。
時間と液温を管理して現像する。
停止し、定着し、水洗する。
ネガを乾燥させる。
そして暗室へ入り、引き伸ばし機を使って印画紙へ焼き付ける。
一枚の写真が完成するまでに、いくつもの工程があります。
結果だけを求めるのであれば、デジタルの方が合理的な場面はいくらでもあります。
しかし、
「写真を作るという体験」
まで含めると、その価値はまた違ってきます。
時間がかかる。
手間がかかる。
失敗することもある。
だからこそ面白い。
そんなアナログ写真の価値が、これから改めて見直されていくのではないか。
高校生たちがフィルム現像に取り組んでいる姿を見ながら、そんなことを考えていました。
フィルムの未来を、まだ諦めたくない
今回関わった高校生たちの中から、一人でもフィルム写真を続ける人が出てきたら嬉しいと思っています。
その人が友人にフィルムカメラを紹介し、また別の誰かが興味を持つ。
そんなふうに少しずつ輪が広がっていけば、フィルム写真や暗室文化は次の世代へつながっていきます。
私自身も、モノクロ現像、暗室、引き伸ばしプリントについて、まだまだ学びたいことがあります。
自分自身はさらに深く突き詰めていく。
その一方で、初めての方でも参加できるワークショップなどを開催し、フィルム写真へ入ってくる人の裾野を広げていく。
その両方を続けていきたいと思っています。
フィルムの未来を、もう少し諦めずにいたい。
今回、高校生たちと一緒に現像をしながら、改めてそう感じました。
カメラがカメラを呼ぶ?
最後に少し余談です。
学校から預かった、カビの発生した引き伸ばしレンズを店で一生懸命掃除しました。
「これで何とか、また暗室で使えるかな」
と思っていた翌日。
インヘリットカメラの買取で、今度は引き伸ばしレンズがごっそり入ってきました。
普段、それほど頻繁にまとまって入ってくるものではありません。
何となく、
「ここなら大事にしてもらえると聞いて来ました」
と言っているような気がして、少し愛おしく感じました。
中古カメラ店をやっていると、時々こんな不思議な巡り合わせがあります。
カメラがカメラを呼ぶ。
レンズがレンズを呼ぶ。
そんなことも本当にあるのかもしれません。
フィルム現像・暗室ワークショップについて
インヘリットカメラでは、モノクロフィルム現像やアナログ写真を体験していただくためのワークショップも行っています。
開催場所や設備などの条件が合えば、店舗以外へ伺ってワークショップを開催することも可能です。
学校、店舗、団体、イベントなどで、
「モノクロフィルムを自分で現像してみたい」
「フィルム写真のワークショップを開催したい」
「暗室や引き伸ばしプリントを体験してみたい」
といったご希望がありましたら、ご相談ください。
INHERIT CAMERA|インヘリットカメラ
インヘリットカメラは、札幌市豊平区平岸にある中古カメラ店です。
中古フィルムカメラ、デジタルカメラ、交換レンズの販売・買取、フィルム販売、現像受付などを行っています。
フィルムカメラを始めたい方や、カメラの選び方、モノクロフィルム現像について分からないことがある方もお気軽にご相談ください。
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