シュンオサダ賞 エントリーNo.21「0秒前」近野 千里

作品ステートメント

ラジオは「音」で届くものです。

けれど、その音が生まれる前には、誰の耳にも届いていない景色があります。 この作品は「音になる前の時間」を写したものです。

放送が始まる0秒前の記録です。

審査員講評 シュンオサダ

審査員賞、おめでとうございます。

この一本のフィルムを読み解くことは、私にとって非常にスリリングで、かつ深い共感を覚える体験でした。

ドキュメンタリー写真の醍醐味の一つは、「その人にしか撮れない場所」から世界を切り取ることです。

ラジオという「音」が支配する空間において、あえて音が生まれる前の「沈黙」を被写体に選んだあなたの視座には、表現者としての覚悟を感じます。

放送席に座る人物の静かな背中や、暗闇に浮かび上がる「ON AIR」の赤い光。これらは、その場に立ち会うことを許された者にしか捉えられない、真実の断片です。

私自身、報道の現場で「誰もが行けない場所」に立ち、シャッターを切る0秒前の震えるような静寂を幾度となく体感してきました。あなたの写真には、まさにその瞬間にしか存在しない「真空」が定着されているようです。

機材の質感やスタジオの遮音壁に向けられた鋭い眼差しは、これから始まる言葉や音楽への深い敬意の表れでもあるように感じます。

「音になる前の時間」をフィルムという静止画で可視化する。その批評的なカメラワークと、現場に対する誠実な距離感を高く評価し、私の賞を贈ります。